「治験(ちけん)バイト」という言葉を聞くと、「ちょっと怖いかも…」「危険なんじゃない?」と思ってしまう方も多いはずです。
SNSや動画サイトでは「治験バイトで死亡」といった不安を煽るような言葉だけが広がり、その背景や仕組みまで語られることはほとんどありません。
この記事では、治験の安全性について、できるだけやさしく、わかりやすく解説します。
目次
治験バイトは「新薬」と「ジェネリック」の2種類。あなたが参加するのはどっち?
まず知っておくと安心なのが、治験には大きく分けて2つの種類があるということです。あなたが参加しようとしている治験バイトが、どちらに当てはまるか知っていますか?
① 新薬の治験
まだ世の中に出ていない“新しい成分”を人に初めて投与する試験です。未知の部分があるため、慎重に進められますが、どうしても「やってみないと分からないリスク」が残ります。
② ジェネリック医薬品の治験
こちらは、もともと新薬として承認され、その後10年以上(多くは20年以上)にわたって多くの人に使われてきた薬と同じ有効成分の試験です。どんな効果があり、どんな副作用が起こりやすいかは、長年の使用実績からある程度分かっている状態でスタートします。
入院の治験バイトはジェネリック医薬品の治験が中心
実は、いわゆる「治験バイト」として募集されている入院治験の多くは、この②のジェネリック医薬品の治験です。この治験は、薬の効果を試すというより、先発品(元になった薬)と同じように体に吸収されるかを確認するものです。
入院の治験バイトを探す過程では、金額や日程に目を奪われがちですが、参加しようとしているものが新薬の治験なのか、ジェネリック医薬品の治験なのかという視点を持つようにしてください。
治験Walkerでご紹介している治験は、この「ジェネリック医薬品の治験」です。
実際にあった治験バイトの死亡事故
残念なことに、過去に治験バイトの死亡事例はありました。そして、その死亡事例は「新薬の治験」で起きています。
もちろん新薬といっても、いきなり人に投与するわけではありません。動物実験(非臨床試験)で安全性を確認した上で、ごく少量から慎重にスタートします。それでも、新しい成分には予測しきれない部分が残るのが現実です。
事例1:2016年 フランス(BIA 10-2474)
2016年、フランスで行われた新薬のフェーズ1(第I相試験)で、健康な参加者1名が死亡し、5名が神経系の重い症状を発症しました。
健康な成人を対象に、動物実験などで安全性を確認したうえで実施された治験で重大な事故が起きたことから、世界中で大きな議論になりました。
事例2:2006年 イギリス(TGN1412)
2006年3月、イギリスで行われた新薬のフェーズ1治験で、抗体医薬TGN1412を投与された健康成人6名がサイトカイン放出症候群(サイトカインストーム)により急激に重篤化し、全員が集中治療を受ける事態となりました。
幸い死亡には至りませんでしたが、新しい成分を初めて人に投与する段階では、想定外の反応が起こり得ることを示した代表例です。
事例3:2019年 日本
日本でも、健康成人を対象としたフェーズ1で死亡事案があり、厚生労働省が調査結果を公表しています。
2019年に、てんかん治療薬の治験参加者(20代男性)が投与終了後に自死し、死亡しました。厚生労働省は実施体制(精神科医が不在だった点など)やリスク説明の不備を指摘し、治験薬との因果関係は「否定できない」としています。
エーザイ(株)の治験における被験者の死亡事案に係る調査結果の概要
重大な事故は「未知の領域」で起きやすい
ご紹介した事例のように、話題になった重大な事故は、人での安全性データがまだ少ない「新薬の初期段階(フェーズ1)」で起きています。
一方、入院治験の中心であるジェネリック医薬品の治験は、長年使われてきた成分を前提に同等性(同じように体に吸収されるか)を確認する試験です。少なくとも、公表されている範囲では、ジェネリック医薬品の治験で死亡事故が起きたという報告は確認されていません。
ただし、これは「ジェネリックの治験なら100%安全」という意味ではありません。普段ドラッグストアで買う風邪薬や頭痛薬でさえ、ごく稀に重篤な副作用が起きることがあります。薬を使う以上、どんな状況でもゼロリスクではないのが医学的な事実です。
だからこそ治験では、医師や看護師が常駐する環境で体調の変化を細かく確認しながら進められます。
治験がなぜ高額報酬なのか(報酬の仕組みと相場、減額パターン)については別記事で紹介しています。
「治験って、実際いくらもらえるの?」 結論から知りたい方のために、まず数字をお伝えします。2025年現在、入院治験1泊あたりの報酬相場は2万円〜3万円です。 入院の治験は、一定の間隔をあけて入院を2回に分けて行うケースが多く、たとえば4泊5日を2回(合計8泊10日)の治験だと約20万円(...
治験の安全性を支える「3つの鉄則」
治験は、新しい薬の安全性や効果を確認するために行われる臨床試験です。そして何より、参加するボランティアの人権と安全を最優先するために、国際的な倫理ルールや国の基準に沿って、厳しいチェックを受けた治験だけが実施されます。
難しい言葉は覚えなくて大丈夫ですが、治験の安全性を支える「3つの仕組み」だけは知っておいてください。
① 第三者が「GOサイン」を出さないと始まらない
製薬会社や病院が勝手に治験を始めることはできません。治験は、ヘルシンキ宣言のような国際的な倫理原則と、国が定めた実施基準であるGCPに沿って計画されます。
そのうえで、「治験審査委員会(IRB)」という第三者機関が、「この計画は本当に安全か?」「人権は守られているか?」を厳しく審査し、承認された治験だけが実施されます。
※GCP:治験で守るべきルール(参加者の人権と安全を守るための基準)
※IRB:治験計画を第三者として審査する委員会
② 「インフォームド・コンセント(納得と同意)」
専門用語で「インフォームド・コンセント」と言いますが、要は「あなたが完全に納得するまで説明し、合意の上で進める」という絶対的なルールです。
難しい書類にサインをさせられる儀式ではありません。「説明を聞いてみたけど、やっぱり不安」なら、その場で断っても全く問題ありません。
もちろん、参加中に「辞めたい」と思った時も、理由を問わず自由に撤回(辞退)できます。
※体調不良や医師の判断で途中終了になった場合は、参加期間に応じて謝礼が支払われることがあります。
③ 万が一の副作用には「手厚い補償」がある
もし治験薬が原因で健康被害が出た場合は、治療費や手当はもちろん、休業補償に近い形での補償金が支払われる公的な制度が用意されています。「自己責任」で片付けられることは、制度上あり得ません。
「入院=危険だから監視」という大きな誤解
「数日間も病院に泊まるなんて、何かあった時にすぐ処置するためでしょ?」そう思う方も多いですが、ジェネリック治験における入院の目的は全く違います。
答えは、「全員の生活リズムを秒単位で揃えるため」。薬の吸収スピードは、非常にデリケートです。
- ご飯を食べる早さ
- 水を飲む量
- 寝る時間、起きる時間
- タバコやアルコールの有無
これらがバラバラだと、正しいデータが取れません。だからこそ、「全員で同じ釜の飯を食べ、同じ時間に寝て、同じ時間に採血をする」という合宿生活が必要なのです。
決して、危険だから監視しているわけではありません。「健康で規則正しい生活」を提供するために、入院という形式をとっているのです。
誰も教えてくれない「治験の選び方」
でも、実際に治験を探す段階になると「その募集が新薬なのか、ジェネリックなのか見分けがつかない」という壁にぶつかります。
なぜなら、一般的な治験募集サイトでは、報酬や日程などの条件が違うだけで、新薬もジェネリックも、すべて「治験バイト」として一覧に並んでいるからです。
そのため、申し込みをする前に、「ジェネリックの治験かどうか」を確認しておくと安心です。
さらに、「応募しても落ちるのが不安…」という方は、合格率を上げるコツも先に知っておくと安心です。
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治験Walkerで探せる治験情報
参加するかどうかを決めるのは、あなた自身です。その判断の助けとして、最初からジェネリック治験に絞って探せる選択肢があることを、知っておいてください。
私たち治験Walkerは、ジェネリック治験を中心にご紹介する方針を徹底しています。不安になりながら案件を探す負担を、少しでも減らせたらと考えており、今後もジェネリック治験を中心に、掲載できる案件を少しずつ増やしていく予定です。
まずは治験Walkerアプリで、どんな案件があるのか覗いてみてください。きっと、「これなら自分にもできそう」と思える案件が見つかるはずです。
正しく恐れて、賢く参加
ここまでのおさらいです。
- 治験バイトの死亡事故は「新薬」で起きている。
- 入院は「監視」ではなく、データを揃えるため。
- 治験Walker は、ジェネリックの治験が中心。
「治験=怖い」というイメージは、その背景を知らないからこそ生まれるものです。正しい情報と治験の仕組みを知れば、これほど効率的で、かつ医療の未来に貢献できるボランティアは他にありません。
実際に入院治験参加者の体験談もいくつか載せているので、気になる方はこちらの記事もチェックしてみてください。

